ウクライナの状況について 2月23日

世界中でウクライナの状況について注目が集まる中で、日本でもウクライナの状況について関心を向けていただいていることに対して非常に感謝しております。しかし、そのような中でも、多くの報道や状況に対する解説においては、問題の本質を捉えきれていない部分や説明が不十分であるところも多々あると感じております。

実際にウクライナで今何が起こっているか、ロシアによる侵略は、歴史をご存知でないと分からない部分も多いかと思います。ウクライナ人には当たり前の事実として認識されている内容でも、それが日本の方々には情報として届いていないことも多いため、視聴者様や購読者様の各メディア様への信頼度が高い中で、一人でも多くの日本の視聴者の方により正確な情報を届けていただくためにも、現在のウクライナ危機の背景情報として、ぜひご一読いただけますと幸いです。

1点目

まず、1点目、最も重要な点になりますが、「ロシアは本当にウクライナを侵略するのか」という点が多くの報道で強調されているかと思います。

しかし、ウクライナとロシアとの戦争はすでに8年前に始まり、ロシアはウクライナを8年前に侵略しています。2014年以降、ウクライナ東南部のドネツク、ルハンシクでは多くの人が戦争で亡くなり、帰る場所をなくしています。ウクライナの東南地方にいるのは「親露派勢力」ではありません。ロシア軍が送り込んだのは「平和維持軍」でもなく、ウクライナにおいて軍事活動を行うための「ロシア正規軍」です。

8年もの間、戦争を長引かせるためには、相当な資金も軍事力も必要です。一部の地方のウクライナ人の親露派達だけで構成する事は物理的にも資金的にも無理です。現在占領されている地域は、ロシア政府の介入無しでは成り立つことは不可能です。

2点目

報道では「クリミアや東の地方では元々、ロシア語を話す人が多く、ロシアに親近感を感じる人が多い」という情報も多いかと思います。そして、東はロシア派、西はEU派などの解説を通してウクライナを東と西で分ける専門家も多いですが、ウクライナは一つの国です。

このような解説は日本全体を関西と関東の二つの軸のみで分けるのと類似しています。考え方やカルチャーなど違う要素がありつつも一つの国です。実際、ウクライナにはロシア語を話す人も多いですが、人口の大半がウクライナ語もロシア語の両言語を話すバイリンガルです。日常的にロシア語を話すことを選択する人でもほとんどがウクライナ人としての認識をもち、ロシアの一部なんかになることは望んでいません。

ではそもそもなぜウクライナの一部の地方では「ロシア系ウクライナ人」が多いのかを理解いただく必要もあります。

日本ではあまり知られていませんが、第2次世界大戦前にスターリンは「ホロドモール」というジェノサイドを実行し、ウクライナ人が独立できないように、計画的に餓死させています。多くの人の体験談を聞くとそれはあまりにも過酷で、スターリン政権はウクライナ人から生きていくための最低限の食物も奪い取り、さらにウクライナの国境から逃げようとする人は射殺され、1,000万人もの人を命を奪いました。

当時、ウクライナの独立意識が高かった東や南の地方では、ホロドモールの影響は特に大きく、東や南の地方に元々住んでいたウクライナ人はスターリンによって大量虐殺され、その代わりにロシア人の住民が送り込まれています。

クリミアも同様です。報道では「クリミアは元々ロシア系住民が多い」と言われることが多いですが、これは事実ではありません。クリミアは元々「クリミアタタール人」が住んでいましたが、ほとんどがソビエト政権によって、シベリアに強制移住させられ、多くの人の命が奪われています。追放したクリミアタタール人を入れ替えるかのように、ロシア人が送り込まれたことから、今ではロシア系住民が多いのです。

つまり、ウクライナの一部の地域においてロシア系住民が多いのは、ウクライナ人やクリミアタタール人がロシア人によって大量虐殺されたことが背景にあります。

ウクライナがソ連から独立した後、一部のクリミアタタール人は帰還することができましたが、それでも人口の1割程度にとどまっています。そして今でも、クリミアがロシアに占領された後、クリミアタタール人は命に危険を感じながら生活をしています。

実際に多くのクリミアに住むクリミアタタール人は人権保護の活動をしていることから、失踪したり、「テロ組織に所属している」などの濡れ技を着せられ、尋問されています。クリミア・タタール人の民族自治組織であるメジュリスの議長である、ムスタファ・ジェミーレフはロシアに過激派として認定され、祖国(クリミア)に帰ることも許されていません。

3点目

「ウクライナではロシア語が禁止され、ロシア系住民が反発している」なども残念ながら報道されていますが、この事実は一切ありません。繰り返しになりますが、このような報道はロシアのプロパガンダです。

ロシア語ができない身として、実際の経験から話をすると、ウクライナに帰ると必ず、どこかではロシア語で話かけられます。その一例として、数年前ウクライナの空港でチェックインしようとした時に、ロシア語で話しかけられたので、ウクライナ語で話してもらうようにお願いしたら、拒否されました。区役所のような公共施設もそうですし、カフェやレストランでも同様に拒否されることも多々あります。

想像していただきたいのが、区役所に行ったときに外国語で話しかけられ、どんなにお願いしても日本語で話してもらえない、という状況と一緒です。ウクライナは公共施設ではウクライナ語での対応を必須とするように数年前に法改正を行なっていますが、日本のように、自身の言語をもつ独立国家として当たり前のことをしただけです。

ロシア語がウクライナで禁止されている事実はなく、地域によってはむしろウクライナ語を話す住民が肩身せまく暮らしています。

4点目

「ウクライナはNATOの介入をやめるべきだ。そうすれば状況が収まる」とも解説でよく言われています。

ウクライナはロシアの言う通りにすべき、アメリカの言う通りにすべきと言う議論をする前に強調したいのは「ウクライナが独立国家」であることです。自分の国を守るために何をすべきで、自分の国民が安心して生活できるように何をすべきかの決定権はウクライナにあります。ウクライナは単純に「自分」の国民が「自分の国の中で」平和に暮らしていけることを実現しようとしているだけです。平和以外何も望んでいません。

日本には日本のことを決める権利があるように、アメリカにもその権利があり、ロシアにもその権利があるかと思います。なぜウクライナにはその決定権はないのでしょうか?なぜロシアの言いなりにならないといけないのでしょうか?

あまりにも理不尽ではないでしょうか?

1点覚えていただきたいのは、2014年まではウクライナは日本と同じく、一切戦争をしてこなかった国です。

戦争をしてこなかっただけではなく、1994年にはブダベスト覚書に署名しています。ロシアを含む協定署名国が、ウクライナに対して安全保障、そして既存の国境を尊重することを条件に自ら核兵器を手放しています。今後も戦争をすることがないという認識であったために、平和に慣れすぎてロシアからクリミアを奪われた時には、まともに機能する軍隊も、軍用品もありません。軍事力があれば、今の状況は起こっていなかったかもしれません。

核兵器を手放すことによって国境を尊重してもらうことを約束されたのに、簡単にその約束を破られると今後、自ら核兵器を手放す国は果たしてでてくるのでしょうか?

2014年のマレーシア航空17便撃墜事件を思い出して見てください。オランダ、マレーシア、オーストラリアなど298人の一般人がロシアによって命を奪われています。今のロシアのさらなる侵略を許せば、軍事力によって他の国の乗っ取ることに対してGOサインを出すことになります。

日本のメディアではロシア語を理解し、ロシア発の情報を日本で伝えられる方を「ロシア専門家」として重宝されがちですが、一部の専門家が発信する情報を検証ができるノウハウや体制が備わっていないがために、ロシア発のフェイクニュースがそのまま日本の視聴者や読者様に伝わってしまうこともあります。日本でロシア発のフェイクニュースを広めないためにも、ウクライナに対してのご理解を深めていただけますと幸いです。